秋葉原にあるデジタルハリウッド大学で1月9日(水) 20:00に行われた公開セミナーに行ってきました。世界に名だたるタイトル「ディアブロ」「ウォークラフト」などをリリースしている「ブリザード・エンターテインメント」のアニメーター並木貞久さんの公演。モデレーターはデジハリ大学の講師 山本浩司さん。
CG関連の話がメインなのでわかるかなぁと少し不安だったのですが、海外のプロダクションがどういった体制で、どのようにモノ造りをしているのか現場の声が聞けて非常に刺激的な時間でした。
ブリザード以前
- 『ビジュアルワークス(スクエニ合併前)』時代
- 職種としては「コンポジット」「ライティング」からスタート。1年ほど担当した。「キングダム」プロジェクトから2年間ほどアニメーター。
- 辞めるきっかけとしては、もともとアニメーションをがっつりやりたかったのだが、スクウェアでも半分はテツケやキャプチャが主だったので業務が物足りなかった。当時、海外(米)でフルCGでの映像制作をがっつりやり始めてたのでそっち(アニメーション)をやりたかった。
- 『パパイヤスタジオ』時代
- ちょうど先方が日本人のアニメーターを探していた。こちらも海外へ渡るために就活をしていたので、とりあえず細かいことは向こう(アメリカ)へ行ってから考えようと思って二つ返事でOKした。
- 実際に渡米し入社してみると、
- 10人規模、学生がたくさん。ソニーの仕事があるという話だったが、一ヶ月くらいでキャンセルになった。いい人材がいなかったため、1年半〜2年くらい何も世に出せなかった。
- とうとう会社が給料を出せなくなり、1ヶ月くらい休職してほしいという依頼が。
- アメリカでの就活
- 自分の会社のスタイルを実現してくれる人しか採ってくれない。※リアル調のところに、アニメ調の物を出してもしょうがない※たとえばピクサー社員でもブリザードに落ちることもある。
- つまり青田買いみたいなことはしない。
- 3年間、寺子屋的なところに行きながら就活。その後ブリザードに受かる。
ブリザードでの経験
実際に携わったアニメーション
- 「ジェネラリスト」か「スペシャリスト」か
- 日本のようになんでも色々できる人は稀で、基本的に全員何らかのスペシャリスト。
- しかし専門外のことが全くできないのは問題。ほとんどが80点、得意分野が200点。
- 具体的にはとなりでやっている仕事の内容も知っていないといけないため。極端に苦手な分野があるのはダメ。
- 知らないで依頼をすると言い返されて難航することもあるので、少なくとも自分の業務の隣の知識は必要。
- 日本人の強みや弱点
- やはりアジア人は真面目で器用な人が多い。
- しかし弱いところ(悪いところ)の方が目立つ。特にプッシュが弱い。向こうだと主張の強さが大切。日本人ならではの「良い物作ればいいじゃないか」というノリは好まれないし、気付かれない。
- うぬぼれはダメだが、自己主張が大切。
- 言葉の壁は?
- 英語がすごくダメという理由で採用されないということはそこまではない。もちろん最低限のコミュニケーションは取れないとダメだけど。
- 採用後、上に行く場合はやはり自己主張がどれくらいできるかが大切。
- 最新動向
- アメリカの強みはハリウッドなどの映画産業が近くにあること。映画のクオリティに引っ張られてゲームも伸びていった。映画業界からのリクルーティングが盛ん。社内に映画業界から来た人がいっぱいいる。映像表現やテキスト(セリフやストーリー)などもそういった専門家をとってこれる。
- 映画のようなゲームという点で日本がそれに叶うわけがなかった。
- 日本もどうようのことをすれば強くなれる?
- 正解はひとつでない。映画産業を取り入れることがアメリカでは自然だったから成功した。日本で同じように映画業界の人を持ってくればよかったか?というと自然ではなかった。
- 日本のゲームは昔強かった(元気だった)が、最近までひっくり返っていた。本当に最近はmobage、GREEで元気になってきたので流れが変わってきつつあるが。
- 制作環境
- ウォークラフトなどのヒットで予算も組みやすい。そのおかげで工数がかかる場合は諦めるといったことも少ない。残業もそんなにない。
- オフィスに犬もいる。
- 「パス」という考え方
- アニメーションでは4つの制作段階を設けており、それを「パス」と呼んでいる。
- 1stパス
- ブロッキング。そのショットで何が起こっているか要素はすべていれる。ポージング大事なのでじっくりやる。
- 2ndパス
- ほぼ完成段階。なめらかなアニメーションになるよう作りこむ。
- 3rdパス
- フェイシャルがメイン。指、細かい筋肉のゆれなど微調整。シミュレーションに投げる。この時点で完成。
- 4thパス
- 完成がない世界なのでどうしても直したいところに手を入れる。おまけ的な。
- 基本的にクリエイターは途中段階の物を見せたくない。しかし「これは1stパスです」と言うことで、できていない部分を変に指摘されない。逆に3rdパスでできていなければガンガン突っ込まれるし、突っ込める。
- リファレンス
- 絵コンテにあわせ、リアルな人間が演技をして実写の映像を作成する。
これを「リファレンス」と言っている。 - リファレンスにはディレクターなどの偉い人や手の空いているスタッフも参加。
- 普段はアニメーターが空いている人をみつけて、部分的に撮ったりする。
- リファレンスを撮るための専用の設備もあるが、社内の周りにある駐車場など思いのままの場所で撮ったりする。半分は遊びのようなものでみんな楽しんでやっている。
- リファレンスを撮るのはディレクターの意思を確認するのが目的。
- アニメーターが実際にCGを作ってディレクターに確認、というのだと非常に時間がかかり効率が悪い。実写映像をサクッと撮ったほうが作業効率、意思疎通が早い。
- 演技は数パターン撮り、どのイメージかディレクターに選択してもらう。
- カルチャーショック
- (米では)演技のやりとりまで普段の業務に入ってくる。すごく時間がかかるが、常に求められる。
- 日本だとそこまでやっているか?予算(コスト)もあるし中々追求してそういった物を作るのは難しいかもしれない。
- アニメーションチームのMTGが刺激的だった。
- ディレクター、スーパーバイザー、アニメーター4人。でかいディスプレイが置いてあるので、再生しながらみんなで言いたいことを言い合う。本当に言いたい放題。新人も関係なく主張することはする。日本だと指示を仰ぐだけだの場合が多い。
- 最初は言いずらかったが、少しづつ話すことを続けていると、次第にみんな聞いてくれるようになる。そして黙っているとみんなが意見を求めてくるようになった。これが認められたと感じることができ、すごく嬉しかった。
- スーパーバイザーのプライドが傷つかないのか?
- アニメーションの場合は少なくともみんなで意見を言い合った方が、良い物になる。「違うもの」ついては最終決定をスーパーバイザーなどが行う。スーパーバイザーも言われて気がつくこともあるし、スーパーバイザ自身が成長できる。
- 日本でもこういった形のスタイルを取り入れていった方が良いかも。向こうで体験してすごく良かった。
- 自由度
- スタークラフト、ディアブロは歴史があるので世界観を壊さないで、という指示が入る。あまり自由にはやらせてもらえない。
- WoWは今までのイメージにとらわれず、毎回考えているので自由な発想で挑戦できる。
- 今回自分が携わったプロジェクトではパンダが主人公なので、リアルよりというよりはフェイシャルをコミカルにしてみた。これはブリザードとしては珍しい試み。
- 注意点>学生向けに
- 最近は色々ツールが進化して、細かい物が色々簡単につけれるようになったが、ベースができていない場合がある。
- ディティール(見栄え)よりも、ベースができているかが大切。就活でプロの人に見せる場合はとくにそういったところを見られる。味付けとかは後で良い。アニメーションだけでなくモデリングとかも同じ。
- 根っこ(本質)がしっかりしたものを作って、デモリールにしてください。
- アニメーションに正解はない。
- 学生のころから違うとか言われるけど、道は一つではないので、色々な意見を吸収して一番良い物にしていくことが大切。
- その他
- マットペイント
- 3Dでキツイところは2D絵で描いて、その上で動かすところを3Dで、といった感じで作業を効率化する。
- 以下のシーンが話題になったためこのトークになった。
次の3分15秒前後のシーンでは、3Dの映像であるものの背景はすべて2Dのイラスト。そこの上で動いている物が3Dとなっている。
質疑応答
- ビザについて
- 自分のビザはH1。4年の大学出るか、4年の実務経験が必要。会社が出すのを嫌がるケースは稀だと思う。ビザが取れるかどうかは本当に国の問題。ビザで働いている人が結構いるのでハードルとしては低いのではと思う。
- カナダから行くと取りやすいという話もある。
バンクーバー(カナダ)の会社も元気になってきているのでそっちで行くという選択肢もある。アメリカの国に限らず色々なパターンを考えてみては。
- 採用について
- やはり人脈強い。
- デモリール送るだけより、人づての方が入ってる人多いくらい。最近は日本人がどんどん出ていっているのでそういった人を捕まえるのは、これまでよりもやりやすい
- 映像プロダクションと、ゲーム会社で行き来はある?
- 映像の人はゲーム側が欲しがっていたのでスムーズ。
- ゲームから映像に行くのは厳しいと言われていたが、垣根はずいぶん低くなってきている。ブリザードからピクサーとかに行ってる人もいる。
- 一人に複数のポジション(仕事)がある?
- ブリザードはわりと特殊で、ひとかたまりの作業として振られる。その中に職種的な物が2つあったということ。
- ビジュアルワークスの場合も両方やってたのは特殊。
- モデリングする人は、原画も描いてる
- コンセプトアーティストは専門にいるので、その人が描いたものをモデリングしていく。コンセプトアーティストはそれ以外は基本的にやらない。
- 例えばコンセプトアーティストが最初に表情を20〜30個描く。モデルやアニメーション作るときにそれらを参考にしながら(ものさしにしながら)、みんな作業をしている。
- マッドペインターは他の仕事をやってる?
- マッドペインターはそれだけやってる。描く仕事だけ。
- 戦闘アクション制作時に気をつけていることは?
- 映画だったら専門の人がいるが、アニメーターは専門ではないので、ひたすら調べる。
色々な映画や映像のアクションシーンを見る。絵コンテで大体の流れは決まるが、どういったアニメまでは決まっていない。ひたすらリサーチ。 - エネルギーはどこから生まれているかを考える。運動エネルギーはぱっと出て、ぱっと消えたりはしない。ある方向から生まれ、動きながら流れて消えていく。
- 「パワーポイント」という考え方
- キャラクターを作る上で、どういった性格や考え、背景があるのかなどを考えてアニメーションを作る。 それとは別の話で次のような考え方がある。
- 例えば
- 妊婦さんはお腹が「パワーポイント」。お腹を中心にして動きをする。そこが「パワーポイント」。物理的には腰だが意識は腰。
- 囚人は足のカセがパワーポイント。
- 匂い嗅ぎながら歩いている人は鼻がパワーポイント。
- 以上のように、キャラクターのどこに「パワーポイント」があるかを決めると、自分の中にぶれが生まれない。
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